【機種レビュー】L東京喰種-後編-
それでは、L東京喰種の機種レビュー後編。
書いていきます!
前編はこちらへ!
皆様よろしくお願いします。プランニング講師バシタカです。
今回は当たり中。
AT「東京喰種咬」以降のゲームフローに焦点を合わせて、前編同様「推しポイント」&「惜しポイント」を挙げていきます。
当たり中と言うのは言うまでもなく、お客さんの遊技意欲に直接結びつく状態であり魅せ所です。
あの台打ちたい!と思ってもらえるものをしっかり用意したいところですよね。
それでは参りましょう!
【推しポイント】
①スタートラインに立てていると思わせてくれる「ストレート+4枚」
お疲れ様です。お見事です。頑張りましたねー!
前提の概要だけ解説します。
まず、現市場で解決したい課題の一つに「上位ATのジレンマ」と言うものがあります。
下位と上位を分けずに済むに越したことはないわけですが、実現性の点では「ゲーム性」と「純増スピード」この2つのバランスを取るのが非常に難しいのが実情です。
ゲーム性を重視したオール低純増(+2枚後半)タイプは高射幸機との相性が悪く、射幸性の引き上げが先行してきたスマスロ市場では未だ目立ったヒット機はありません。
逆に、最初から高純増と思ってもらうためにストレート+9枚とか8.5枚、みたいに無茶した機種はありますが、スタートラインに立てていると思わせるどころか、デキレ感や滞在の短さと言ったデメリットの方が目立ってしまい、こちらも未だヒット機がありません。
(かぐやは?と聞こえてきそうですが、減算区間のある疑似ボ連系機種は、実質の区間純増は額面上の数値より低く、出玉が伸びるほど減算区間の占有率が下がり区間純増が高くなっていく、つまり本質的には純増可変型です。)
この境界線の限界を責めたのが本機のストレート+4枚。
現市場の価値観相場として、純増可変型タイプの上位ATにおける純増下限値が+4枚でしょう。
つまり、「最初から高純増」と言う印象を与えられるギリギリのラインなんですよ。
「上位ATのジレンマ」を解消するために最大限やれるだけのことはやった感が出てますよね。
これを下回っていたら、成功してもこのジレンマを解消したとは言えないし、上回っていて失敗したら、まだヤレることあったのに、となりますので。
では争点ですが、実際ゲーム性と両立できているのか?と言うところ。
軽く掘っていきましょう。
本機のメインAT「東京喰種咬」は、ターゲット機種であるからくりサーカスに合わせて初期150枚の差枚管理AT。
特徴的なのは、頭に現状維持の10G導入エピソードを付けているところ。
これは、相対的に純増が上がったことによって発生する「当たり区間の体感的な短さ」を軽減させるのが機能上の目的でしょう。
ただそれだけで終わらせず、ここでは対戦相手のエピソードを魅せることで東京喰種の世界への没入感を強化できていますので、結果最低限の出玉コストで一石二鳥。
滞在中の赫眼ホールドも気が利いていますし、エピソードを邪魔しないように上乗せは後告知に回すことで、本ATとは異なるゲーム性を提供できています。
ちゃんと考えてて偉い。
消化中は高純増故に展開が早く、G数による抽せんもからくりサーカスと比べてスパンが短い15G刻み。
レア役による抽せんも、相対的な滞在の短さに合わせて、各抽せん値が相場より高めです。
レア役確率自体は普通ですから、それで滞在が短いとレア役を引ける割合が下がることになります。
と言うことは、1回の価値を上げなければ辻褄が合わないからですね。
ちゃんとしてます。
激情ジャッジにあたる上乗せCZ「喰種対決」も、出現率が非常に高い。
レア役からの当せんを相場程度で持ちつつ、G数契機でもしっかり当たる良バランスです。
(BITESについては後述するのでここでは割愛)
次に問題の上位ですが、そもそも上位ATって何が問題なのか?
別にダメなわけではないのですが、メリットもあればデメリットもあるので、理想を言えばデメリット潰したいよねと言う話なんです。
メリットは、ゲームに明確な目標を設定してくれること。
これは説明不要ですね。
デメリットは、ゲームフロー上で下位と上位が明確に分かれているだけで「下位ATでは出玉が出ない」または「道のりが遠い」という先入観を与えてしまうことです。
重要なのは、「実際そうでなくても」と言うことです。
存在が可視化されているだけで、心理的には実態以上に壁が多そうに見えてしまう。
こうなると、下位AT消化中は「目標を目指す過程感」が強すぎて、上位ATのCZ的な心理状態になってしまいせっかくの当たり区間なのに高揚感が削がれるんです。
それが、上位ATの大きなデメリットの一つですね。
と言うことで、上位ATと言う「目標」と、下位ATの「高揚感」と言う相反する2つを両立させたい。
これが、このジレンマの正体です。
では本機を見ていきましょう。
本機も上位ATはシステム的には存在するわけですが、作りの巧みさで境界線を曖昧にすることで下位を下位と感じさせない工夫をされています。
見た目上は、死神経由=上位でもなければ、有利区間リセット=上位でもない。
ツラヌキ後の再突入ATも、裏ATですらも、ずっと純増は同じ+4枚。
更にBITESテーブルは死神を経由した方が弱い、と言うねじれ方。
ん?結局どこが上位?ってなるようになっています。
巧みですよねー本当に。
かなり曖昧になるように作られています。
裏ATは上位で間違いありませんが、裏に入れなきゃ出玉が出ないと言うようにはなっていませんし、そう思ってもらうことに成功しています。
裏ATまわりのロジック自体はルパン大航海の盗り放題に似ているんですが、大きな違いはやはり純増が同じと言うところ。
これが効いてますよね。
だからこそできたことではありますが、名前変えたりせずに地味な存在にしたのも正解。
印象がまるで違います。
いやーしかし、これは本当に頑張りましたよねー。
言うは易しですが、このゲーム性でストレート+4枚を実現させるのは大変だったと思います。
素直に拍手です!
②デキレを疑わせない気遣いに溢れた「BITES」
BITESを主軸に作られた機種でしょうから、ここはとてもこだわりを感じるところです。
挟めば2確、順押しなら3停まで引っ張る。
押し順によって楽しみ方が変えられる教科書通りの作り。
本機はBAR下段からのチャンス目の形が2種類あって、1つは分かりやすい「リリス」
もう1つは「リ赫赫」要は「リチェチェ」ですね。
後者はあまりチャンス目としては市場で馴染みのない形ですが、本機は順押し時のハズレ目(変則ベルこぼし)時に第2停止で中段に「赫」を引き込みやすい組み方をしているので、この形が2殺目にならないようにするために用意された形でしょう。
特にこのBITES中に3停逆転要素として機能しています。
まぁ、頻度低すぎて引いたことはないんですけどね。
赫眼が絡んでも突破率自体には変化が生まれないところも無駄がなくて◎
告知方法を選べるという仕様も、滞在率の低い大事な場面だからこそ藁にも縋りたいユーザーの心理にフックするオカルト誘発機能として貢献。
隙がないですねー。
突入画面の小役揃いが気になる!という方はいらっしゃると思います。
開始画面でレバーロックをかけて、配列を全て見せてから遊技開始することはもちろんできます。
できますが、もしそうしていたら「小役引いてた時に限って配列弱い!操作してんだろ!」とか言われているでしょう。
そんなことやってなくても、です。
やってなくても、やってないことを証明できない、やっているように感じさせてしまう。
そうなってしまっていたら、それはやっているのと同じこと。
証明しようのない「本当は〇〇」なんていう真実には何の価値もありません。
どう見えるか、と言う事実にしか価値はないんです。
それが商品開発です。
ガチ感を優先した結果なので、これは必要悪。
ただまぁあの・・・、
流石にこの突入画面の1Gで強レア役引いても半数以上何もないのはヤバいだろとは思います笑
それでは続いて、惜しポイントです。
ベタ褒め感が出ていますが、当たり中も通常と同様に惜しいポイントがありますので、書いていきます。
【惜しポイント】
淡泊でドラマに乏しい「喰種対決」
成立役に応じて勝利抽せんを行うタイプのCZ
要は激情ジャッジですが、目玉である最終G小役確定仕様は非搭載。
こいつの遊技性がまぁ淡泊でドラマに乏しい作りになってしまっているなぁと言うのが私の印象です。
掘っていきましょう。
まず消化中の勝利抽せん対象役はリプレイ以上です。
以上って言われてもよく分からないのが、前編で書いた通りこの台の良くないところなのですが。
喰種対決は、激情ジャッジと違って最終Gだけ特別なわけではないため、1~3Gの間も均等に勝負所になっています。
演出の魅せ方としても激情ジャッジとは異なり、しっかり本機の仕様に合わせて、最終Gだけを目立たせる魅せ方をするのではなく4G間敵との攻防を繰り広げています。
激情ジャッジが1~3Gはエピソードを魅せ、最終Gだけ目立って異なる表現をしているのは、内部も実際そういう抽せん仕様だからですしね。
これを脳死で真似ずに、しっかり内部仕様に見合った魅せ方をしている演出表現はやっぱり偉いです。
ところが、抽せんシステムの方は作りがちょっと気になります。
激情ジャッジは、結局最終Gが最大の勝負所ですから打ち手としても1~3Gで仮に何も引けなくても、最後までモチベーションが保てる作りです。
だから別に道中レバーでナビが出ても期待感が大きく削がれることはなく、遊技性としてそこまで淡泊になりません。
対して喰種対決は4G間全て平等ですから、何も引けない遊技を1G1G消化するごとに打ち手の心理はどんどん追い込まれていくわけです。
そんな状況で、レバーONベルナビを出してくるわけです。
しかも押し順ベルは抽せん対象じゃない。
大事な局面なのに、高頻度でレバーナビを出されることで早々に大きく期待感を削がれるんですよね。
ナビ発生からリプレイあるよ的なものは逆転要素であって、頻度も低いですから期待感持続と言えるほどのものではない。
通常CZ同様に、演出表現はちゃんとしているのに、そもそも土台となるシステム側のパズルがズレていて、ちょっと残念な仕上がりになっている印象です。
これも通常CZ同様、ナビを出していることで発生している問題です。
では今回も、何故ナビを出す仕様にしたんだろう?を考えていきましょう。
激情ジャッジはナビ出るし・・・と言うはもちろんあるでしょうね。
その他としては、本機はそもそもAT中フルナビなので、からサーと違ってAT中は元々ペナルティ処理がいらないんですよね。
ナビを出さない状態を増やすってことは、それ用のペナルティ処理を作らないといけなくなる、という容量コスト面のデメリットが大きいかもしれません。
これに関しては、そのコスト込みで全仕様がちゃんと実装可能かどうかになってくるので、ここまで来ると流石に外からでは分かりません。
このルートの思考はここまでです。
では次、ナビを出すなら出すで、何故ナビベルを抽せん対象役にしなかったんだろうか?を考えていきましょう。
だって、同様にナビが出る通常CZ中は対象役なわけですからね。
これに関しては、ナビベルを対象にしても頻度が高すぎて期待度は10%程度になってしまいますし、勝負所なのにそれでは全然盛り上がらないだろう、と言うところでしょうか。
確かにこれはこのままならそうでしょう。
ただそれならそれで、北斗やモンキーのように凝縮した2Gにするなど、期待度を上げる方法はあります。
激情ジャッジと違って均等抽せんなら、4G構成にこだわる必要はないですから。
何故そうしなかったんだろうと言うところまでは辿りつけそうにありませんが、鍵になりそうな形跡ならあります。
何かと言うと、押し順ベルの構成にちょっと違和感がありまして。
どうも何かやろうとしていたけどやめたんじゃないかなと思うんですよね。
前提で軽く説明しておきたいのが本機のATシステム。
本機で採用しているシステムだと、メイン配当の条件装置を4種類以上用意する必要があります。
嚙み砕いて言うと、11枚ベルの停止型を4種類持たなければならないということです。
こういうことですね↓
他機種だと、左上段からのベル揃いは全て低配当にしたかったりするケースが多いので、その場合は一つを小山型とかにして4種類確保します。
こんな感じですね↓
モンキーターンVなど、このパターンは多いです。
4種類の条件装置を持つ必要がないATのシステムもありますし、最近はそちらを採用する機種も多いのですが、どのシステムを採用するのがその機種にとって最適か、と言うところまでは表の遊技性とは関連の薄いメイン仕様も含めてトータル的に判断することなので、ここまでは外側からは分かりません。
システムの解説はこの辺にして先に行きますね。
本機の押し順ベルがこちらです↓
なんか多いんですよ。
6つもいらないんです。
4つでいいんです。
機能上は不要なのにわざわざあるということは何か別の目的があるはずなんですが、現状は特に意味ないですよね。
しかも、不自然にベルがズレた形が2つありますよね。
こういうのを全く気にしていない機種だったり、採用しているATのシステム上一直線揃いの実現がどうしても難しかったりする機種はあるのですが、本機はそうじゃなくて、一直線揃いで4種類持ててるわけです。
じゃあなんだこれ?と。
可能性を考えましょう。
【可能性①】純増可変型だった。
純増可変のやり方は色々ありますがその中に、低配当ベルと高配当ベルに分けてナビON/OFFまたは頻度に差を付けると言うやり方があります。
配当が異なれば当然組み合わせを分けなければならないので、その結果6つあるんじゃないか?と言うことですね。
この線はまぁあり得るんですけど、だとしても普通はなるべくベルっぽく見せたいので、モンキーみたいに小山型とかにすることが多いんです。
ですがこちらは、いかにもベルがハズレました感を強調する形になっているのが気になります。
そこで次の可能性です。
【可能性②】ベルが一直線で揃うか揃わないかで何かやってた。
何かしらの状態で押し順ナビからベルが一直線に揃うか揃わないかで何か抽せんを分岐させるゲーム性をやっていたんじゃないか、と言う説ですね。
実際ズレた形の2つは、中第一と右第一のベルが一直線になる形にそれぞれ対応していて、テンパイして外れる、と言う停止型になっています。
揃えば良いのかハズれれば良いのかは分かりませんが、 そう言うことをやるのであれば、こうなっていても納得できます。
喰種対決中だったら、ナビから一直線に揃ったら勝利抽せん対象、みたいな。
それでちょっと番長っぽい感じにしようとしてたのかな?と。
可能性①と②のハイブリッドと言うこともあり得ますね。
可変型でベルの種類が多くなるのを遊技性に生かして、ナビから高配当のベルが揃うとチャンス!みたいなことです。
純増が上がる上位AT中は高配当ベルも全ナビなので、必然的に喰種対決の勝率UP!みたいな。
まぁありがちですが、これやっちゃうともう普通に明確な上位ATになっちゃいますね。
なんにせよ、これが残った状態で市場に出ているということは、開発のかなり終盤までそれをやっていて最後の最後でやめたのかもしれません。
真相は流石に闇の中なので、とりあえずこのルートの思考もここまで、ですかね。
こう言う形跡から開発の過程に想いを馳せると言うのも、思わぬ何かが見つかることもあって面白いですよ。
さておき、この喰種対決はATフロー上非常に重要な局面なので、もっと濃厚でドラマチックな展開を楽しませて欲しかったところです。
有馬戦で4G間全ナビなんて出された日にゃ萎えてしまいますからね!
この喰種対決そのものがしっかり展開を楽しめる濃厚な遊技性になっていれば、喰種対決に行くかどうかと言うジャッジ演出の緊張感や、前兆中の気分の盛り上がり方も全然違っていたことでしょう。
いやー、本当に惜しいですね!
さて、長いことお付き合いいただきありがとうございました!
以上でL東京喰種の機種レビュー終了となります!
後半ディスに見えているかもしれませんが、違いますよ!
これは東京喰種が良台であるが故。
惜しポイントというのは言葉の通りで、「惜しい」のです。
良台であるが故に、「惜しい」と思ってしまう。
そもそも良台じゃなければ惜しくないですからね。
良台だからこそ、語ることが多いのです!
それに、結果的に惜しい出来だったとしても、それは開発者が当時の判断を間違ったとか手を抜いたと言うことではありません。
こう言うのは、後からならいくらでも言えるんです。
以前書いたように、今ヒットする企画を考えるのは簡単ですが、商品企画の仕事は2年後ヒットする企画を考えることです。
市場に出た後と言うのは、言ってしまえば答えが出た後ですからね。
答えが出る前に判断しなければならないのが商品開発です。
そして、その判断と言うのはその時プロジェクトが置かれている状況によって最善の選択は変わってくるものです。
市況だけではなく、社内の状況、残りの期間や予算。
様々な要因を鑑みた上で最善の判断をしなければなりません。
結果的に惜しい出来だったとしても、それがその時の判断としては最善だったと言うことは多々ありますからね。
私からは素直に、良台を世に送り出してくれてありがとう!そしてお疲れ様でした!と言いたいです。
さて。
このくらいでいいですかね。
プランナーの思考の本番は、ここからです。
これら「推し」と「惜し」の抽出が終わった後「じゃあどうすれば良かったか」を導き出すのが機種分析の目的です。
当然のことではありますが、記事で書いた分析はただの私個人の考察であって真実とは無関係です。
なんですが、実際のところはどうだったのか、と言う真実は正直どうでもいいことなんです。
重要なのは、市場に出た商品を外から見て、仮説を立てて分析して、自身にとっての答えを導き出すという行為そのもの。
開発者にとっては、それを蓄積することが自身の糧となるからです。
ちなみに、この「じゃあどうすれば良かったか」と言う改善案が見つからないのが神台です。
どの要素も、どのルートから辿っても現状から変えてしまうとメリットとデメリットのバランスが崩れてデメリットが勝ってしまう状況まで全てのパズルが完成されている。
つまり最適を求めると「こうにしかならない」と言う結論になってしまうのが神台の特徴です。
散々思考を繰り返した後に元いた場所に戻されるわけですからね。まさに脱帽です。
さて、G&E校内では、こういった議論を毎日生徒とわいわい行っています。
講義以外でも将来有望な若手と議論が沢山できるので、私としても刺激になっていて非常に楽しいですよ。
面白そうだなと思った方!いつでも待っています!
ご興味ある方は是非、体験講座をはじめとしたオープンキャンパスへどうぞ!
それでは、次回のジャーナルもどうぞお楽しみに!
■プロフィール
プランニング講師バシタカ
パチスロのエンタメとしての可能性を妄信する元開発者
この業界の将来のためになるか否かが全ての行動指針
パチスロ商品企画職として実務経験13年(うちメーカー11年)
・ディレクターとして企画/指揮したプロジェクト(パチスロ機種)は8機種
・マネジメントを含めて、関わった機種は計22機種
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©石田スイ/集英社・東京喰種製作委員会 ©SPIKY ©CROSSALPHA